錆びないカラダと言うけれど・・
[2024.10.17]
錆びないカラダ、という言葉をよく見聞きします。放っておくと、私たちの体はどんどん錆びてしまうようなことが書いてあります。あたかも鉄やなんかの金属かのように。
そもそも錆とは何でしょう。一般的には金属の表面が水分や空気などに反応して酸化してしまうことなどを指して言います。そうなると金属は見た目も変わりますが、ボロボロと剥がれ落ちたり強度が低下したりします。赤茶けてザラザラになり、ギーギーギコギコいって、使い物にならなくなる感じ。
この「錆びる」という言葉を人に使う時、多くの人は頭や腕が錆びると言うときとカラダが錆びると言うときで、それぞれ意味を限定して使っているようです。
まず、頭が錆びる、といった時には、頭の回転が悪くなるという意味でしょう。例えば、「あの医者、頭が錆びてるな(または錆びついてるな)」などと使います。いや、言わないでください。
腕が錆びる(錆びつく)という表現もあります。この場合、技能や能力が衰えるといった意味になります。例えば、「あの医者は腕が錆びてきているな」などと使うことができます。いえ、まだ実際には使わなくて結構です。
このあたりの表現は昔から使われており、お歳の方にも馴染みがあるでしょう。しかし、近年よく使われるようになった「カラダが錆びる」というのは、もちろん機能が落ちるという意味では似てはいますが、より直接的に「酸化」という意味で使っているようです。より具体的に言うと、活性酸素というものよって体がダメージを負うということを言い表すことが多いようです。と、唐突に言われても、何を言っているのか今一つわからないという人もいることでしょう。ということで、わかりやすく説明してみましょう。
まず、活性酸素とは何でしょうか。私たちの体は食事などで体内に取り込んだものの多くを、酸素を使って燃焼させエネルギーに変換しています。この時にできる副産物が活性酸素で、これ自体には細胞を傷つける作用もあります。私たちは生きていくために常にエネルギーが必要ですから、活性酸素も生きている限り必ず体の中で作られていることになります。しかしそんな不良グループが多少できたところで、体全体が不良グループに乗っ取られることはありません。ちゃんと不良グループを排除・制御するシステムが体には備わっています。
しかし不良グループ、すなわち活性酸素が増えすぎると、さすがに学校やPTA、じゃなかった、体も手に負えなくなります。そうなると体のあちこちで不良グループが悪さをするようになり、その結果体に不調をきたすことを「カラダが錆びる」と言っているみたいです。わかりやすかった?(この簡潔な説明に不満がある多くの読者のためにグーグルがあるのでしょう笑)
そこで不良と目され、目の敵にされている活性酸素をできるだけ作らせないようにしたい、できてしまった活性酸素を速やかに除去したい、と思うのも無理はありません。ネットで検索するとそんな記事が無数に挙がってきます。その中身はほとんどが抗酸化物質、つまりはビタミン類やポリフェノールなどをたくさん含む野菜や果物、飲料を摂りましょう、となっています。そして活性酸素を増やしてしまうような生活習慣を改善すべきとされており、そのような生活習慣とは飲酒、喫煙、過度の運動、日焼け、ストレスと書いてあるものが多いようです。そして一部には抗酸化物質のサプリメントを勧めるものもあります
野菜や果物をたくさん食べることに異論はありません。その効果が抗酸化作用がメインなのかどうかはひとまず置いておくとしても、これらをたくさん摂取することが健康を維持することに役立つことはたくさんの研究結果が示しています。よく濃い色の野菜がどうのこうのとか書いてありますが、季節のものをいろいろ食べるというくらいのつもりで十分な気がします。ただ、一部には「生野菜の酵素を摂取する」ことが良いなどと書いてありますが、そういったものは消化の過程でほぼすべて失活するため、良くも悪くも影響は及ぼしません。
飲酒・喫煙・日焼けも体をいじめることは間違いありません。日焼けと喫煙は皮膚の老化を如実に早めるので、早くから老けて見えてしまいます。周りの人は決して本人には言いませんが、「老けてるな~」とまず間違いなく思われていることでしょう。体の中も同等に錆びている可能性も否定はできません。いや、それもまず間違いないでしょう。
過度な運動が悪いとありますが、本当かどうか疑問が残るところです。と、いうのも、余暇時間に運動することは健康に繋がり、寿命を延ばすことが数々の研究で示されているからです。さらに運動はすればするほど、また運動強度が高いほど、その恩恵に与れることが知られています。たしかに運動すると活性酸素の生成は増えるので、その理屈で言えば体に悪そうです。どうやらこれは運動を継続しているかどうか、運動慣れしているかということにも関係しているようです。運動を繰り返し行っていると、活性酸素を除去する体内のシステムが補強され、悪さをするほどには増えないようになります。そのため日々楽しく運動をしている人たちが、運動のし過ぎで不健康になるということは起こらないのです。気を付けるべきなのは、普段運動しない人が急にマラソン大会に出るとか、たいした栄養も与えられずに劣悪な環境下で強制労働に従事させられるといったことでしょう(この場合、速やかに逃げ出すことをお勧めします)。
ところで、活性酸素はそんなに悪い奴らなのでしょうか。よくドラマなどでは、不良の子も陰でこっそり困っているおばあさんを助けたり、捨て猫を拾ったりしています。活性酸素も何か良いことしてないのかしら・・。安心してください!履いて・・いや、実はいい仕事をしているのですよ。細菌やウイルス、癌細胞を排除しようと戦ったり、免疫系の情報伝達を担ったりと、私たちの体のために日夜働いてくれています。
さらに最近では、小脳など脳内にある活性酸素が記憶や動作の習得にとても重要な働きを持つことが報告されています。この研究結果を見ると、抗酸化作用のあるビタミンEを摂取させたマウスは、そうでないマウスに比べて記憶力の低下がみられています。そう、活性酸素は実は結構いい奴らだったりして。こんなに悪者扱いされてきた活性酸素ですが、私たちは近い将来神棚に祭って毎日祈りを捧げる対象になるかもしれません・・それは冗談としても、活性酸素を目の敵にして、やたらに抗酸化物質のサプリメントを摂取するのはやめた方が良さそうです。