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非認知能力で長生きに~コロナ禍で思うこと~

[2020.06.15]
私が連載担当している産経新聞コラム「健康カフェ」6/11付 意外と(⁈)周囲で評判が良かったので、少し加筆して転載しました 以前ほどの苛烈さはなくなったようですが、それでも受験競争の厳しさは今でも残っているようです。若者の多くはその競争を勝ち抜くため、記憶力を磨き、学力をつけようと頑張らなくてはなりません。知らないことを学ぶということは楽しいことでもありますが、多くの人の最終的な目標は社会的に成功するということなのでしょう。 学力や知能指数といったものは認知能力と呼ばれ、数値化して比べやすいものです。こういった能力が高い人は、少なくとも今までの社会では、より多くのお金を稼いだり、より高い社会的地位についたりすることができる可能性が高くなることが知られています。 一方で誠実さや忍耐力、自制心といった思考や態度は、テストの点ではなかなか測れないものですが、認知能力を補うものであり社会で生きていくのに有用なものと考えられます。このような能力は非認知能力と呼ばれており、これらに恵まれている人は、やはり社会的に成功する可能性が高く、また抑うつや孤独を感じることが少ないことが今までの研究で示されています。 糖尿病で通院する60代後半の男性患者さんからは、いつも飄々としていながらもその実芯が強い印象を受けます。今回の新型コロナウイルス感染症の拡大についても、「いつかは良くなるのだから、今は頑張って耐えるしかないよ」と動じるそぶりを見せません。自粛生活がストレスになっていないか尋ねたところ、今まで長い間家の外でも中でも耐えてきたのだから、このくらいの不自由はたいしたことではないのだと冗談めかして笑っていました。 忍耐とか自制とか、ずっと続けていると体に悪いのではないかと思う人もいるかもしれませんが、決してそうではなさそうです。こういった非認知能力が高齢者の寿命に与える影響を調べた研究結果が2020年5月に米国の医学雑誌に発表されました。この研究は英国在住の52歳以上の男女約8千人を対象に、非認知能力の高低と死亡率の関係をおよそ7年間観察したものです。ここでの非認知能力は誠実性、忍耐力、情緒の安定性、楽観性、(自分の身に起こっていることの)制御の5つとして、質問に対する回答から数値化しています。結果は、これらの非認知能力が総合して高いほど、死亡率は低くなっていました。これは健康状態や社会経済的状況などの影響を考慮に入れてもなお有意なものでした。また個々の能力のどれか一つではなく、すべてを併せ持つことで効果が発揮されていることも示されています。 非認知能力が死亡率を下げるはっきりした理由はわかっていません。こういった思考や態度が体内のホルモン分泌を変えるのかもしれませんし、もしかすると健診をきちんと受けたり、体の変調があった時にすぐに受診したりするという行動につながるのかもしれません。いずれにしても、非認知能力を高めることは経済的、心理的な面だけでなく、健康的にも恵まれることが期待されます。コロナ禍で悲観的になったり不安が強くなったり、また他者に寛容でいられなくなったりという人もいるのではないでしょうか。こういった機会もまた、自分の考えや態度を見つめ直し、心を整えるきっかけになればと思います。
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