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中世絵画とバビンスキー兆候

[2020.12.15]
バビンスキー兆候(またはバビンスキー反射)という言葉をご存知の方は少ないのでしょう。しかし医者であれば必ず知っていますし、医大生でもほとんどが知っているという、とても有名な医学用語です。これは生後2歳くらいまでの乳幼児期に見られる反射で、足裏の外側をこすると足の親指が反り返る(他の指は扇形に開くか屈曲する)という反射です。成長とともになくなるので幼稚園児から大人まで通常は見られません。しかし例えば脳梗塞で運動障害を残した時などには再び見られるようになることがあり、病的反射と呼ばれます。

なぜそんなに有名かというと、簡単に誘発することができ(特に赤ちゃんで)、わかりやすく覚えやすいということが主な理由なのだと思います。医大生はみんな実習でやりますが、医者になってからも友達の赤ちゃんなどでこっそりやっているのは私だけではないはずです。

このバビンスキー兆候、初めて記載されたのは19世紀の終わり頃で、皆さんの予想を裏切らずバビンスキー医師のよるものです。ここでは病的反射としての発見のようですが、赤ちゃんにこのような反応があることはもっと昔から知られていたようです。

中世ルネッサンス期に描かれた絵画の中に、キリストを赤ちゃんとして描き込んでいるものが多数あります。それらの赤ちゃんにバビンスキー兆候がどの程度の割合で見られるかということを調べた研究結果が最近英国の医学雑誌に発表されています。結果は、名のある画家が手掛けた絵画の約3割の赤ちゃんキリストにバビンスキー兆候が描かれているのだそうです。画家によって頻度の差があるということと、子弟関係にあると継承されやすいということもあるようです。また誘発の刺激になりそうな足裏に当たるものまで描かれている絵画は半数程度ですが、ダビンチやジョルジオーネなどは必ず描かれているのだそうです。

医者は観察するということが非常に重要な職業ですが、芸術家の観察眼はそれ以上のものなのかもしれません。特にこの時代はリアルに描くということが重視され始めた時ですし、画家もただ絵を描くだけでなくいろいろなことに才能や興味を持ち、実際に手を出していたということも手伝うのでしょう(ダビンチが良い例えと言えるでしょう)。

電子カルテに聴診器をあてる、と揶揄される最近の医者には、目の前の患者さんをよく見る(診る)べきという意味でも、意義深い研究なのではないでしょうか。(ただ単純に面白いとも言えますが・・)
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