メニュー

運動は食前?食後?

[2022.11.10]
最近とある雑誌のオンライン記事の、健康の素朴な疑問というコーナーに「朝食前に早歩きしたら筋力が落ちてしまった」というものがありました。定年後にダイエット目的で朝食前に1時間の速歩を行っていたところ、体重も落ちてきたが下肢筋力も低下している自覚があるというものです。これに対してどこかの医者が「空腹時に運動しているため筋肉量が減ってしまった」のだと答えていました(まさか!?)。そしてダイエットには運動より徹底的な食事制限をし、その上で筋トレするようにと書いています。
この医者の珍妙な回答はさておき(なぜこの人に依頼したのでしょう?もっとちゃんとした答えを書ける人は世の中にたくさんいるはずなのに笑)、運動を食前に行うか食後に行うかという疑問は興味深いものではあります。実際のところ朝食前に運動しているという人は多いのではないでしょうか。持久系のアスリートでも半分以上の人が空腹時に運動しているといいます。その主な理由は、空腹時に運動する方が脂肪をより多く燃焼できるからと考えているからです。
私たちが体を動かすときには、主に糖質と脂肪を燃焼してエネルギーとしています(蛋白質を主なエネルギー源とするのは特殊な状況のみです)。単回の運動など短期間でのデータを見ると、運動での脂肪燃焼は食後よりも空腹時の方が多くなります。食後などで利用できる糖質がたくさんある状況では、そちらを優先的に利用するためです。しかしトレーニングを続けていると、空腹時と食後で糖質・脂質の利用にそれほど差がなくなってくることが言われています。
脂肪燃焼や筋肉をより効率よく活用することに関して言えば、短時間の適度な運動、例えば1時間程度の速歩や軽いランニング程度(軽~中等度)までの運動では、空腹(もしくは20g前後の蛋白質摂取、糖質抜き)の方が良さそうです。糖質をたくさん摂りすぎていると(120g以上)、効果は減弱してしまう可能性があります。高強度インターバルトレーニング(HIIT かなりキツイ)など短時間でも激しい運動をするときには、運動前の糖質摂取の有無はあまり影響なさそうです。90分を超える長時間の軽~中等度の運動では、20g前後の蛋白質と併せてそこそこの糖質(~75g、おにぎり1~2個程度)を摂っても構いません。もし長時間ハードに動くのであればその倍量程度までの糖質摂取が必要になります。パフォーマンスを上げるという観点からも、90分を超えるような長時間の運動前にはある程度の糖質と蛋白質の摂取が勧められます。
ここで冒頭の質疑応答に戻ると、「空腹で歩いたから足の筋肉落ちちゃったんだよ」という回答に、まさか!?と思った皆さんが正しいということになります。多くのアスリートが同様の状況で運動していますが、筋力がみるみるうちに落ちちゃって、なんてことにはなりません。この質問が架空のものでないとしたら、この方はすでに徹底的な食事制限をしており、そのために体重も減ったが筋肉量も落ちてしまったというところでしょう。もしそうでないとしたら違う病気を考えて検査を勧めるべきです。
様々な研究から確かに運動で減らせる体重はわずかなものということがわかっています(かなり大量の運動を続ければ別ですが)。しかし運動には体重増加の抑制、心肺機能の強化、心血管病の予防などの効果があり、寿命を延ばし、かつ抑うつや認知症を予防することも知られています。いつまでも仲良く一緒にいたいと思えるような素敵な人がいるのであれば、飲みに誘うよりも(飲酒は少量でも寿命を縮める)一緒に運動する方が良いかもしれません。「一緒にHIITやろう!」みたいな。まあ2回目はないかもしれませんが笑
▲ ページのトップに戻る

Close

HOME