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虫垂は何のため?

[2019.07.12]

虫垂。小腸が大腸に繋がったあたり(盲腸)にある突起のこと。ものの本によれば1500年代にイタリアの解剖学者カルピが解剖学の本で初めて世に知らしめましたが、ダ・ヴィンチはそれより早くに解剖図解に記していたそうです。その後ダーウィンはこの虫垂を痕跡的なものと呼び、それからというもの虫垂はあってもなくてもいいようなものだと長らく考えられていました。

しかし虫垂炎(いわゆる盲腸(炎)と言われているもの)は無視できるものではありません。虫垂の存在が知られていない時からこの病気で命を落とす人は少なからずいたでしょうし、虫垂切除や抗生剤投与が標準的治療とされるようなった近代でも命を落とした人はいます。
ところでこの虫垂、何をしているものなのか答えられる人は多くはないはずです。なぜならまだあまりよくわかっていないからです。虫垂は他の腸管と同じように筋肉や粘膜など何層かの組織が合わさってできており、粘液などを分泌する腺があります。もちろん血管も神経も届いています。中身はリンパ組織が詰まっているものであるので、何かしらの免疫にかかわっていることが推測されています。ついでに言うと、虫垂炎は細菌感染による炎症ですが、それがなぜ起こるのかということもはっきりしていません。スイカの種を食べたから・・、というようなことが間違いであることはわかっていますが。
近年、虫垂(炎)とパーキンソン病が関係しているのではないかという研究結果が報告されるようになっています。パーキンソン病とは体を滑らかに動かすことが難しくなる脳の病気であり、一見虫垂とは何の関係もなさそうです。しかし最近の研究結果によると、虫垂切除を受けて半年以上経過した人は、何もしていない人に比べパーキンソン病になる人が3倍多かったというのです。
虫垂からは神経伝達を担うある種の蛋白質が出されていることがわかっています。そのたんぱく質は塊になって脳に沈着するとパーキンソン病や認知症を起こす可能性があるものです。またそれとは別に、腸管での炎症は脳や神経の構造を変えてしまう可能性があることも示されています。これらのことから、虫垂炎自体、もしくは虫垂を切り取る手術が脳に影響を及ぼすのではないかと推察されています。
ただ虫垂を切除して20年以上経った人では逆にパーキンソン病になりにくいというデータもあります。虫垂が何らかの影響を脳にまで及ぼしている可能性はありそうですが、だからと言ってむやみやたらに切り取ってしまうことはまだしない方が良さそうです。
生き物は環境に適応させるべく進化してきたと考えられますが、だからと言って唯一無二の最善の回答を手にしている訳ではありません(そして当然ながらヒトが進化の頂点にいるという考えは思い上がりもいいところなのでしょう)。その過程で、過去には有用だったものが今は無用になってしまい、遺残物と見做されるものもないわけではありません。しかし本当はその機能や存在意義を私たちが理解できていないだけなのかもしれませんね。たとえばこの虫垂のように。

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