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冬眠したい君へ

[2024.02.06]
このコラムの更新を長らくサボっていたことにふと気づきました。いや、気づかないふりをしていました。忙しさにかまけて・・
いや、実はついうっかり冬眠していたのですよ。こんな言い訳、リスとかクマとかの友達じゃないと信じてくれないでしょうけど。
でもこんな雪が降って寒い日には、いっそ「冬眠したい!」と本気で思う人もいるのではないでしょうか。でも、もしあなたがとでも好奇心と実行力にあふれる人で、冬眠計画を実行に移そうとしているのなら、少し考えなおすことをお勧めします。でないときっとひどい風邪をひくでしょうし、もしあなたがさらに我慢強さも併せ持っていたら・・・おそらくその我慢強さが仇となるでしょう。そう、冬眠にはヒトにはない特殊な機能が必要で、私たちがご飯をお腹いっぱい食べて土の中にもぐったとしても、その上に墓標が立つだけです。
冬眠する生き物は、冬眠中に基礎代謝を平時の1~10%にまで減らすことができます。そうすることで体温を下げ、脳や呼吸器、循環器の機能を一時的に低下させます。しかし視床下部のような脳の一部の機能は活発に活動しており、エネルギーの振り分けを上手に行っています。エネルギー代謝は糖質利用モードから脂肪利用モードに切り替え、蓄えた脂肪をゆっくりと使っていきます。
気温の低下や日照時間の短縮、餌の減少などがきっかけとなり内分泌に変化が起こるために冬眠に入ります。しかし一部の動物は、環境とは無関係に周期で冬眠に入るものもいます。冬眠中はずっと眠っているというイメージがありますが、それはどうやらクマだけで、他の動物は睡眠状態と覚醒を周期的に繰り返しています。そしてやはり周期的に時々体温を上昇させ、代謝を回復させています。冬眠中のエネルギー利用の多くはそのために使われています。
冬眠中は基本的に脳や循環器、筋肉などの活動を低下させています。しかし春が来たらまたすぐに活動できなければいけないので、冬眠中に諸々の機能を損なわすに維持できるような仕組みが備わっています。脳であれば神経の可塑性を通して血流の低下や低酸素から守り、循環器では低体温や低酸素、不整脈に抵抗性を持ちつつ恒常性を維持しており、筋骨格系では運動不足の中でも筋力や骨密度を維持しています。
低体温にすれば代謝は低下し酸素消費量も減るため、無酸素・低酸素状態に持ちこたえられる可能性が高くなります。この原理を利用して、心血管病の手術や心肺停止蘇生後の回復過程で低体温療法が以前から用いられています。これにさらに代謝を抑えるような薬剤を併用することで冬眠状態を誘導し、頭部外傷や脳梗塞といった脳損傷の治療に用いるというようなことも行われ始めています。ただ、低体温にはその後出血を助長したり感染を長引かせたりといったデメリットもあります。そこで最近では低体温にせずに人工冬眠を誘導する方法も研究されています。
寒い思いをしなくても冬眠に入れるなんて、素敵じゃないですか?(えっ?そうでもない?)こういった研究が進めば、いつかは医療だけでなく月や火星といった他の星への移住時にも使えるでしょうし、さらには趣味としても寒さ抜きで人工冬眠が楽しめる時代が来るかもしれません。生産性やタイパ(タイムパフォーマンス かけた時間に対する効果)といった言葉が大きな顔をしている時代に、「趣味は冬眠」なんてとってもクールだと思いませんか?

最近久しぶりに会った友人が、「生産性」という言葉を連呼していました。きっとその言葉の使いどころを心得たところでお気に入りなんでしょうね。「おれは生産性の低いことはしたくない」「それって生産性はどうなの?」「子育てみたいなそんな生産性の低いことはおれがする必要はないよね」といった調子です。なんだか大変そうで疲れそうだな、と心配になり、何か趣味はないのかい?と聞いたところ、驚くべき答えが!「趣味はね~、魚釣り。時々子どもも連れていくんだけど、あのボーっと何も考えない時間が良いんだよね~」とのこと。心配は無用でした。
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