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百薬の長からの陥落

[2018.09.26]

醸造の歴史は紀元前まで遡るくらい古いもののようです。何千年も前からヒトは米や麦、葡萄などを発酵させてお酒を造っていたと考えられます。当初は儀式に用いるためのものだったのかもしれませんが、飲むと酔っぱらうことができるという素晴らしい(!)性質をいつまでも放っておく手はありません。いつしか多くの人が飲むようになったのも、そう不思議なことではありません。
ヒト以外の動物にも酒好きの種はあるようです。しかし憑りつかれたかのようにここまで醸造技術を発達させてきたのはヒトならではと言えるかもしれません。我が身を滅ぼす可能性も顧みずに・・。
アルコールには脳の働きを鈍らせる作用があることを、多くの人が身をもって知っているかと思います。飲み始めからしばらくは抑制が外れた、いわゆるハイな状態になります。この時が一番楽しいですが、気が大きくなっている状態であり、後々後悔するようなことをやってしまいがちな(加害者になりやすい)時間帯とも言えます。もっと酒が進むと思考も体の動きも鈍くなります。こうなると今度は転んだり事故に遭ったり事件に巻き込まれたりする(被害者になりやすい)ことになります。
飲んでいるうちに赤くなったり動悸がしたりということが出てくるのは、アルコール自体ではなくそれが少し分解されたアルデヒドによる症状です。日本人には欧米人に比べこのアルデヒドを分解する酵素が少ない人が多いため、飲み会でも半数くらいが赤い顔をしています。それが嫌で飲まないという人もいることでしょう。反面、これは良いことでもあり、というのはこういう人は体を壊すまで飲酒するとか、アルコール中毒になることがまずありません。
飲み過ぎると、前夜の自分に対する嫌悪感とともに、頭痛や嘔気、だるさに襲われます。そう、あの忌まわしき二日酔いです。驚くことに、二日酔いがどのようにして起こるのかは未だに詳しくわかってはいないそうです。原因がわかっていないので、これだけ長い飲酒の歴史があるにもかかわらず、効果的な治療法も開発されていません。そういえば昔教わった神経内科の先生が、「二日酔いにはビタミンCと酸素が効く」と言っていましたが、これは試してみる価値がありそうです。少なくともたくさん水を飲むとか、迎え酒をするよりはずっとましな気がします。
お酒は長らく「百薬の長」と言われてきました。酒飲みにとっては免罪符のような素敵な言葉です。実際のところ、少し前までは医学的にも適量の飲酒は体に良いのではないかと考えられていました。しかし最近では、お酒に適量と言うものは存在せず、飲んだら飲んだ分だけ身も心も削られるという研究結果が続けて報告されています。少しの量でもお酒を飲み続けると寿命が縮む、認知症が増える、けがも病気も増えるということです。たくさん飲んだら体に悪いだろうということは誰もが理解しやすいところですが(ロシア人の平均寿命の短さ!)、少量でも毒は毒ということのようです。
そういった意味では、お酒はヒトが最も長く付き合っている毒物と言えるのかもしれません。そしてこの先もお酒なしの人類史などあり得ないのでしょう。もちろん個人史としても・・

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