肉食のススメ、は本当か?
[2024.05.31]
また長いこと間が空いてしまいました。今回は冬眠していた訳ではありません。春眠暁を覚えずとはよく言ったもので・・・もう言い訳はやめておきます。
家のご飯はだいたい私が作っているのですが、最近小学生になった次男からクレームが!
「パパ、なぜうちのご飯にお肉が出ないの?」
「いやいや、そんなことはないだろー。っていうか、そーいうことを家の外で絶対言うんじゃないぞ」
「・・・うん。で、なんでお肉が・・」
「いや、お肉食べてるじゃん。トンカツだって、鶏の唐揚げだってお肉だぜ。すごーくたまにだけどステーキだって食べることあるじゃん」
「そーいうんじゃないんだよ。ほら、こうやって手に持って、ガブっと食べるとビヨーンってなって」と言いながら、一生懸命身振り手振り。
「あー、もしかして骨付きの?しかも、でかいやつ?」
「そうだよ!ワンピースで食べてるあれがお肉だよ」アニメの話です。昔で言ったらギャートルズの骨付き肉のイメージそのままです。
「そーかー。でもあんな大きな肉は売っていないし、もし買えても中まで火を通すのが難しいと思うんだよね」
「いーなー、食べたいなー。で、いつにする?」
「いやいや、だから・・」
とりあえずその晩は鶏の手羽元の唐揚げに。骨付き肉(極小だけど)に最初は喜んでいたけど、途中から、なんか騙されてる?みたいな表情をしながら食べていました。
あんな風に肉をガツガツ食べているのは、海賊や原始人だけだよ、と言いたいところですが。実際のところ海賊も古代の人々も、大きな肉にありつくことはあまりなかったでしょう。海賊の食事は、塩漬けや乾燥させた固い牛肉と、乾いたパン、ぬるいビール、といった程度のものだったようです。不衛生で、常に病気と隣り合わせで、処刑されることなども含め多くがかなり短命だったと考えられています。 古代の人々とて同様でしょう。農耕が始まる前の人々は、毎日のようにマンモスを倒して大きな肉をガブリとやっていた訳ではありません。むしろ大型動物を狩って肉にありつくことは稀なことで、食料の大半を採集した植物由来のものに依存していたとされています。つまり、ワンピースやギャートルズの骨付き肉は、現実からは程遠い、でもそうだったらいいのになー、という私たちの幻想なのです。 と、子どもに話しても伝わるわけもなく・・今日も明日も「肉はまだか」と、言われ続けるのでしょう。 ところで最近、特に高齢者に対してさかんに肉食を勧める文章に出会うようになりました。元気で長生きするためには肉を食べろとか、認知症の予防に肉は必須だとかいう論調です。食肉流通センターやエバラのホームページに書いてあるのは当然として、いろんな医者(老年医学の専門家から寄生虫の博士、あの精神科医まで)や栄養士さんなんかがこぞって「肉を食べろ」と書き立てています。 なぜこんなにみんな書きたがるのか。大きな理由の一つとして、肉食は体に良くないと言われていたのに、実は(高齢者は)食べてもいい、いや、食べたほうがいい、と言えることの快感があるのでしょう。それらを書いている人の多くはきっと肉好きに違いありません。だけど自分の立場上それを大っぴらに言うわけにはいかず、鬱屈した感情を長年溜め込んでいたのでしょう。勝手な想像ですが笑。 肉好きな高齢者には朗報でしょう。これでもう、誰に憚ることなく肉を食べ放題です。今日はステーキ、明日はトンカツ、いや、なんなら朝は牛丼、昼はシュラスコ、夜は焼肉といった感じでしょうか。周囲の牧場や養豚場から牛や豚が一掃されるくらいの勢いで食べましょう。ナイフとフォークを手に狩りに出かけるというのもいいかもしれません。運が良ければ大きな骨付き肉にありつけるかもしれないですよ。もちろん返り討ちにあう可能性は低くはないですが。 ところで、本当に高齢者に肉食はおススメなのでしょうか。そう主張している人たちの根拠ははっきり示されていないか、数少ないちょっとした観察研究の結果からというものです。一方で肉食が中高年の健康を脅かすという研究結果は世界に非常にたくさんあります。もちろん可もなく不可もなくというものもありますが、積極的に肉食を推奨したくなるような結果にはほとんど行き当たりません。 肉食があまり勧められていない理由として肥満するからだと思っている人も多いようですが、そこではありません。肉食は心血管病や大腸がんを増やし、寿命や健康寿命を短くしてしまうこと、そしてみんなが肉食に走ると環境負荷が増え、環境破壊がさらに進むというところにあります(たぶん一部の人が短命になったくらいでは補えないほど)。でも、これって若いうちの話でしょ、中高年はしっかり肉食った方が丈夫な体と脳が維持できるんじゃないの?、なんて思う人もいるでしょう。また、そういうことをテレビで言う人も増えたので、それが正しいことのように感じている人も増えていると思います。 しかし様々な研究から、中高年以降でも肉食は心血管病の発症や死亡を増やし、死亡率を上げ、脂肪肝を増やし、睡眠の質を下げ、認知機能を悪化させ、フレイルさえも増やすということが報告されています。最近の英国での研究では、未加工の赤肉を週1-2回食べるのは良いのだけれど、それを超えるとやはり悪さをすると報告されています。ここでは加工肉(ハムとかソーセージとか)はやはり体に悪く、未加工の鶏肉であればたくさん食べても悪いことはなさそうという結果も出されています。 逆に植物由来の(蛋白質を含む)食品摂取や地中海食(オリーブオイル、野菜果物、未精製穀類、魚介類を摂取し、赤肉や加工肉は少なく)では、心血管病や認知機能低下を抑制するとされています。また、日本人の中高年(~75歳)のデータでも、蛋白質摂取源を動物性から植物性に振り替えることで心血管病や死亡が減るということが報告されています。フレイル予防としても蛋白質摂取は重要なのですが、それとて肉からでなく植物由来のもので十分補えることが示されていますし、肉を食べないからホルモンが足りなくなるとか抑うつ・認知症になりやすいということもありません。 肉を食べてはいけない、と言っているわけではありません。ただ、高齢者は肉を食べなければいけない、ということは正しくなさそうということです。ネットや雑誌の記事には肉が万能薬のように書かれていますが、そうではないのです。いくつになっても健康的な食事は大事で、それと体を動かすことを続けていくのが最善のようです。
あんな風に肉をガツガツ食べているのは、海賊や原始人だけだよ、と言いたいところですが。実際のところ海賊も古代の人々も、大きな肉にありつくことはあまりなかったでしょう。海賊の食事は、塩漬けや乾燥させた固い牛肉と、乾いたパン、ぬるいビール、といった程度のものだったようです。不衛生で、常に病気と隣り合わせで、処刑されることなども含め多くがかなり短命だったと考えられています。 古代の人々とて同様でしょう。農耕が始まる前の人々は、毎日のようにマンモスを倒して大きな肉をガブリとやっていた訳ではありません。むしろ大型動物を狩って肉にありつくことは稀なことで、食料の大半を採集した植物由来のものに依存していたとされています。つまり、ワンピースやギャートルズの骨付き肉は、現実からは程遠い、でもそうだったらいいのになー、という私たちの幻想なのです。 と、子どもに話しても伝わるわけもなく・・今日も明日も「肉はまだか」と、言われ続けるのでしょう。 ところで最近、特に高齢者に対してさかんに肉食を勧める文章に出会うようになりました。元気で長生きするためには肉を食べろとか、認知症の予防に肉は必須だとかいう論調です。食肉流通センターやエバラのホームページに書いてあるのは当然として、いろんな医者(老年医学の専門家から寄生虫の博士、あの精神科医まで)や栄養士さんなんかがこぞって「肉を食べろ」と書き立てています。 なぜこんなにみんな書きたがるのか。大きな理由の一つとして、肉食は体に良くないと言われていたのに、実は(高齢者は)食べてもいい、いや、食べたほうがいい、と言えることの快感があるのでしょう。それらを書いている人の多くはきっと肉好きに違いありません。だけど自分の立場上それを大っぴらに言うわけにはいかず、鬱屈した感情を長年溜め込んでいたのでしょう。勝手な想像ですが笑。 肉好きな高齢者には朗報でしょう。これでもう、誰に憚ることなく肉を食べ放題です。今日はステーキ、明日はトンカツ、いや、なんなら朝は牛丼、昼はシュラスコ、夜は焼肉といった感じでしょうか。周囲の牧場や養豚場から牛や豚が一掃されるくらいの勢いで食べましょう。ナイフとフォークを手に狩りに出かけるというのもいいかもしれません。運が良ければ大きな骨付き肉にありつけるかもしれないですよ。もちろん返り討ちにあう可能性は低くはないですが。 ところで、本当に高齢者に肉食はおススメなのでしょうか。そう主張している人たちの根拠ははっきり示されていないか、数少ないちょっとした観察研究の結果からというものです。一方で肉食が中高年の健康を脅かすという研究結果は世界に非常にたくさんあります。もちろん可もなく不可もなくというものもありますが、積極的に肉食を推奨したくなるような結果にはほとんど行き当たりません。 肉食があまり勧められていない理由として肥満するからだと思っている人も多いようですが、そこではありません。肉食は心血管病や大腸がんを増やし、寿命や健康寿命を短くしてしまうこと、そしてみんなが肉食に走ると環境負荷が増え、環境破壊がさらに進むというところにあります(たぶん一部の人が短命になったくらいでは補えないほど)。でも、これって若いうちの話でしょ、中高年はしっかり肉食った方が丈夫な体と脳が維持できるんじゃないの?、なんて思う人もいるでしょう。また、そういうことをテレビで言う人も増えたので、それが正しいことのように感じている人も増えていると思います。 しかし様々な研究から、中高年以降でも肉食は心血管病の発症や死亡を増やし、死亡率を上げ、脂肪肝を増やし、睡眠の質を下げ、認知機能を悪化させ、フレイルさえも増やすということが報告されています。最近の英国での研究では、未加工の赤肉を週1-2回食べるのは良いのだけれど、それを超えるとやはり悪さをすると報告されています。ここでは加工肉(ハムとかソーセージとか)はやはり体に悪く、未加工の鶏肉であればたくさん食べても悪いことはなさそうという結果も出されています。 逆に植物由来の(蛋白質を含む)食品摂取や地中海食(オリーブオイル、野菜果物、未精製穀類、魚介類を摂取し、赤肉や加工肉は少なく)では、心血管病や認知機能低下を抑制するとされています。また、日本人の中高年(~75歳)のデータでも、蛋白質摂取源を動物性から植物性に振り替えることで心血管病や死亡が減るということが報告されています。フレイル予防としても蛋白質摂取は重要なのですが、それとて肉からでなく植物由来のもので十分補えることが示されていますし、肉を食べないからホルモンが足りなくなるとか抑うつ・認知症になりやすいということもありません。 肉を食べてはいけない、と言っているわけではありません。ただ、高齢者は肉を食べなければいけない、ということは正しくなさそうということです。ネットや雑誌の記事には肉が万能薬のように書かれていますが、そうではないのです。いくつになっても健康的な食事は大事で、それと体を動かすことを続けていくのが最善のようです。