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脱皮してる?

[2024.09.05]
脱皮: 古い考え方や習慣から抜け出して新しい方向に進むこと(デジタル大辞泉) 夏休みで田舎に行き、草むらで捕まえたコオロギを虫かごに入れて眺めていた6歳の次男。しばらく静かに見ていたのですが、「コオロギが脱皮してる!」と興奮気味に教えてくれました。
どれどれ、と見に行くと、今まさに脱皮中で、黒い外皮の中から白っぽいコオロギが出てきていました。珍しいものを見られたね、良かったね、と話していたのですが、そんなコオロギの姿を見ながら、彼は唐突に言ったのです。
「パパも毎日脱皮してる?」
「!!!・・いや、あの、うん、パパもそうありたいと、毎日頑張っているつもりだけど・・いや、でも、毎日脱皮できているかと言われると、そこまで言い切れないかな・・」
突然の問いに、思わずしどろもどろで真面目に答える私。
「ふ~ん、そうなんだ」聞いておきながら、たいして興味もなさそうにさらりと聞き流す次男。
後で気づきましたが、最近流行りの歌の歌詞に ♪~相変わらず脱皮してる毎日~♪ というのがあるんですね(Bling-Bang-Bang-Born)。そこから大人は毎日脱皮するものだと思っていた模様。・・ええ、もちろん毎日脱皮しますとも。
脱皮とは昆虫やヘビ、カメなどが、成長の過程で古い殻を脱ぎ捨てることです。ヒトは比喩的な意味でしか脱皮しません。人間として成長する様を、虫などが自分の殻を破って成長していく姿になぞらえて、一皮むけた、とか、脱皮した、と言うのでしょう。
でも、私たちの皮膚は毎日ちょっとずつ生まれ変わっています。重さにすると1日10g(ネットには1日1gというのをよく目にしますが、皮膚科医によると10gとのこと)。1年で3.6kg程度の皮膚を脱いでいる計算になります。たぶん。
まあ実際には、いらなくなった皮膚の欠片をそこら中に撒き散らしながら生きていて、せいぜい部屋の埃を増やすことに貢献しているといったところでしょうか。それでも見方によっては、私たちは毎日(10gずつ)脱皮しながら生きていると言えます。(本当か?)
ちなみに毛髪も1日100本前後は抜けており、人によってはもっと多いかもしれません(キャ~!数えたくも考えたくもない)。抜けるのと同じくらい生えてくるのであれば、何ら問題はありませんが、そうでない場合最悪の事態を・・・何の話でしたっけ?
そう、皮膚の話でした。放っておけば勝手に皮膚は生まれ変わっていくのです。表皮(文字通り表側の皮膚)では、その内側で皮膚の細胞が生まれ、成長とともに表面に移動してきます。そして最終的に細胞は死を迎え、表面の角質を形成することになります。そのサイクルはおよそ1か月程度です。死んだ細胞=角質が徐々に剥がれて去っていくのですが、死んだ細胞だからと言って無駄に皮膚にしがみついているわけではありません。老いてなお防衛の最前線に立って、細菌やアレルゲン、化学物質などの侵入を防いでいるのです。そして役目を終えると黙って去っていく(もともと無口といえば無口ですが)。かっこいいですね。老いてもなお権力や自己顕示に執着し、陰に回って老害をなす政治家みたいな人たちとは大違いです。
と、いうことで、表面の粗いタオルやスポンジで肌をゴシゴシするようなことは、せっかくの老兵、いや角質を取り除いてしまうことになり、それはそれはもったいないことだと言えます。垢すりなどもってのほかです。洗い過ぎにも注意が必要です。皮脂も皮膚のバリアとして角質とともに重要な任務を背負っています。髪にツヤやなめらかさを与えているのも皮脂です。ぬるめのお湯で手を使って優しく洗ってあげましょう。ボディソープを使うのであれば、香料など余分なものをできるだけ含まない、弱酸性のものを少量使えば十分です。脱皮をしたい人も、そうでない人も、ぬるま湯に浸かりながら(本当はシャワー浴の方が良いのですが)のんびりとしていれば、あとは皮膚の細胞が勝手にやってくれます。あ、ぬるま湯は人生じゃなくてお風呂ですよ。
件のコオロギ君は、自分で脱いだ殻をむしゃむしゃと食べ、何食わぬ顔(この場合、殻食わぬ顔?)で飛び回っていました。あっという間に元の黒い体に戻ったコオロギは、自然のサスティナビリティを目の当たりにした息子の手によって草原に帰っていきました。
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